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私生活上の行為と懲戒(解雇)

企業が持っている懲戒権は、生産性の向上を目的に、職場内の秩序維持の必要性から認められているものであるため、職場内での就業時間中の行為に対して及ぶものであり、職場外のいわゆる私生活上の行為に対しては及ばないのが原則です。

しかしながら、職場外でなされた職務に関係のない行為であっても、その行為が、会社の名誉や社会的信用を毀損させ、会社の円滑な運営に支障を来たすおそれがある場合には、懲戒の対象となることがあります。

この点について、判例では、「企業秩序の維持確保は、通常は、従業員の職場内又は職務遂行に関係のある行為を対象として、これを規制することによって達成しうるのであるが、必ずしも常に、右の行為のみを対象とするだけでは充分であるとすることはできない。」とし、「従業員の職場外でなされた職務遂行に関係のない行為であっても、企業秩序に直接の関連を有するものもあり、それが規制の対象となりうることは明らかであるし、企業は、社会において活動するものであるから、その社会的評価の低下毀損が、企業の円滑な運営に支障をきたすおそれがあると客観的に認められるような行為については、職場外でなされた職務遂行に関係のない行為であっても、広く企業秩序の維持確保のために、これを規制の対象とすることが許される場合もあるうる。」と判示しています。

この職場外でなされた職務遂行に関係のない行為であっても、会社の名誉や社会的信用を毀損させるような行為については、その行為の態様等により、直接的な毀損行為と間接的な毀損行為に分けることができます。

(1)会社の名誉や社会的信用を直接的に毀損させるような行為
これは、職場外において会社を誹謗、中傷したり、あるいは虚偽の風説を流布、宣伝するなどして、会社の社会的信用を毀損させたような場合が該当します。

過去の判例では、従業員が、職場外において会社の経営政策や業務等に関して、事実を誇張、歪曲して批判した内容のビラを配布したことが懲戒処分となり、争われた事件があります。

(2)会社の名誉や社会的信用を間接的に毀損させるような行為
これは、職場外でなされた従業員の不名誉な行為によって、(間接的に)会社の体面を汚したというような場合です。

一般的には、職場外において職務とは関係のない不名誉な行為があったとしても、それは全く個人の問題であることから、直ちにそれをもって会社において処分を科すことはできないのが原則です。

ただし、そこで問題となるのは、従業員の職場外での不名誉な行為がどの程度のものであれば会社の体面を汚したことになるかといった基準のようなものですが、この点について、判例では、「従業員の不名誉な行為によって会社の体面が汚されたというためには、(必ずしも具体的な業務阻害や取引上の不利益の発生を必要とするものではないが)従業員の行為の性質、情状のほか、その従業員の会社における地位、職種等、及び会社の事業内容、規模、会社の業界における地位、経営方針など諸般の事情を総合的に判断して、従業員の行為によって会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当に重大であると客観的に評価されるような場合でなければならない。」としています。

また、懲戒解雇との関係でいうと、「不名誉な行為が、客観的に見て企業の秩序ないし規律の維持又は企業の向上と相容れない程度のもので、これによって現実に企業の体面、すなわち企業者としての社会的地位、信用、名誉等が著しく毀損され、企業者にとってもはや当該労働者との間の雇用関係の継続を期待し得ない場合」としています。




icon 私生活上の行為を理由とした懲戒解雇をめぐる判例

具体的にいくつかの判例を見てみると、次のような傾向にあります。

❶従業員が公休日に飲酒運転をして通行人を死亡させ、業務上過失致死傷罪の執行猶予付きの判決を受けたことを理由に会社から解雇された事件で、新聞の片隅に「飲酒運転で人をはねる」との見出しで事件の概要が報道されているだけで会社名は書かれていなかったこと、この事件によって同人が勤務する会社の他の従業員の作業意欲が特に減退するようなことはなかったこと、また事故後の同人のとった措置に誠意が認められることなどから、会社が行なった解雇は無効と判示された。

❷工員が住居侵入罪として逮捕されたことが、懲戒解雇事由たる「会社の体面を著しく汚したとき」に該当するとして会社から懲戒解雇された事件で、刑罰の内容が罰金2,500円程度であること、同人が職務上指導的な地位にないこと等の事情から、会社の行なった懲戒解雇は無効であると判示された。

❸鉄道会社の従業員が、私生活上において電車内での痴漢行為を繰り返し行なっていたことを理由に会社から懲戒解雇された事件で、従業員は従事する職務に関わる倫理規範としてそのような行為を行なってはならない立場にあり、本件行為が報道等によって公になるかならないかは問わないとされ、会社が行なった懲戒解雇は有効であると判示された。

❹在職中から教え子の生徒と公然の交際をし、卒業後には肉体関係を持つにいたった妻子ある女子高の教師に対する懲戒免職が有効と判示された。




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