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採用内定の取り消し

採用内定の取り消しは、一旦採用の内定を受けた入社希望者が、入社日までに特別な事情が発生したことによって企業側からその内定を取り消されることで、安易に行われるとトラブルになります。

企業の採用課程について見てみると、企業によりその具体的な手続きは様々ですが、一般的に採用の意向が固まると、企業が入社希望者に対して採用の内々定を出し、その後正式な内定通知を出すということが広く行われています。

一般に採用の内々定については、採用の予定であるということで、この段階で労働契約が成立したと見ることはできませんが、企業が入社希望者に対して内定通知を出し、それに対して入社希望者が誓約書等を提出した場合には、その時点で労働契約が成立したと判断され、このような労働契約を『始期付解約権留保付労働契約』と呼んでいます。

この『始期付解約権留保付労働契約』とは、従業員として仕事を開始する時期を新卒の学生であれば、(多くは)学校卒業後の4月1日とし(=始期付)、それまでの間に万が一採用内定当時知ることができないような特別な事態が発生し、採用することが困難となった場合には、企業はその採用を取り消す場合がある(=解約権留保付)という内容のものです。

よって、始期付解約権留保付労働契約も労働契約には違いないので、企業が内定を取り消すことは、事実上の解雇に等しいとされており、その取り消しには、解雇と同様に「客観的に合理的な理由」がなければならず、取り消しも「社会通念上相当なもの」でなければなないこととなっています。(労働契約法第16条)

さて、その採用内定の取り消し事由として「客観的に合理的な理由」があるとされる事由については、具体的に次のようなものが考えられます。

(学生など入社希望者側に事情がある場合)
(1)卒業ができない場合
(2)私傷病等により、入社日以降就労ができない場合
(3)履歴書や面接内容に重大な虚偽があった場合
(4)刑事事件で訴追されたような場合

(2)私傷病等により、入社日以降就労ができない場合
入社日の時点で、私傷病のため就労できるめどが立たない場合です。数週間立てば就労できるとわかっていれば別ですが、いつ就労できるか明らかでない場合や、回復に期間を要するような場合には、取り消しの対象となってくると考えられます。

また、入社の時点で治癒していたとしても、後遺症等で当初契約していた内容の労務提供が継続的に十分にはできないような場合にも、内定取り消しの対象となってくると考えられます。

(3)履歴書や面接内容に重大な虚偽があった場合
履歴書や面接内容に虚偽があったからといって、それだけで、採用内定を取り消せるわけではありませんが、虚偽の内容によって今後の労務提供に問題が出てくるとか、信頼関係を維持できないといった重大な事由がある場合には、採用内定の取り消し対象となってくると考えられます。

(企業側に事情がある場合)
経営不振・事業規模の縮小等経営上やむを得ない事情がある場合

企業の経営が悪化しているなど、経営不振を理由に採用内定を取り消す場合には、整理解雇の有効性を判断する際の次の四要件(又は四要素)を総合的に考慮した上で、判断されることになっています。

すなわち 、
①人員削減を行う経営上の必要性があること
②解雇を回避する努力をしたこと
③被解雇者の選定基準に妥当性があること
④十分な事情説明や協議を行なったこと

→整理解雇の四要件(又は四要素)

②解雇を回避する努力をしたこと
自社で採用することが困難である場合は、関連会社や取引先企業などに就職のあっせんができないか等の検討が求められるでしょう。

③被解雇者の選定基準に妥当性があること
正社員として採用が内定している者については、現在雇用している正社員と同じレベルで考慮すべきとされていますが、被解雇者の順位などは次のようになると考えられます。

パートタイマー・期間雇用者 → 採用内定者 → 試用期間中の正社員 → 正社員

④十分な事情説明や協議を行なったこと
採用内定を取り消す場合には、内定者に来社してもらい個別に対応するなど真摯に対応することが求められます。

取り消し通知のみで簡便的に行うことは、権利の濫用に当たり、無効とされる可能性が大きいと考えられます。



icon 採用内定の取り消しを行う場合に、予告期間を設けること又は解雇予告手当の支払いは必要か?
採用内定の取り消しは解雇に相当しますが、採用内定者の場合は、まだ事業所に使用されておらず賃金も得ていないため、労基法上の労働者(注)に該当しないことから、労基法第20条の解雇予告等の適用は受けないと考えられます。

(注)労基法上の労働者とは....
労基法第9条では、労働者の定義について、事業所に使用される者で賃金を支払われる者としています。

icon 行政機関への届出等
行政においては、厚生労働省から『新規学校卒業者の採用に関する指針』というものが出ており、新卒者に対しての企業の一方的な都合による採用内定の取り消しなどは、その対象となった学生や家族に大きな失望を与えることから、企業は採用内定の取り消しを防止するため、最大限の経営努力を行う等あらゆる手段を講ずべきことなどの内容が盛り込まれています。

また実際に企業が、新卒者について一人でも採用内定の取り消しを行なおうとする場合には、職業安定法施行規則に基づく届出が必要となっています。

icon 採用内定の取り消しをめぐる訴訟等
採用内定の取り消しをめぐる訴訟については、新卒者の場合は件数は少ないもののようです。

費用や期間の問題もあるでしょうし、訴訟を起こしてまで入社しても、決してよい取り扱いは受けないであろうという考えが根底にあるものと考えられます。

実務的には、企業側が和解金を支払うことで解決しているケースが多いようです。

なお採用内々定の段階での取り消しについては、まだ労働契約が成立していませんから解雇には該当しませんが、不法行為に基づく損害賠償の対象にはなります。



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